夢と生活の糧

『銀行員は音楽の話をし、音楽家はお金の話をする』と聞いたことがある。夢(好きなこと)を生活の糧とすることの難しさを言っているのだけれど、その言葉に出会ったニューヨーク時代、まさにその通りだと妙に関心したのを覚えている。もちろん夢イコール生活の糧、というのが一番幸せなパターンだが、それを実現するのは難しいのだ。

十五年間、ニューヨークで好き勝手やっていた私。
「どちらも大切!」
と夢も生活の糧も追い求めた結果、両方の世界(プラス単なる冒険で他の世界にも)に足を踏み入れ実際に音楽の業界で働き銀行員になった経験もある。だから両側の人間をたくさん見てきたし、おかげで多種多様な経験ができて皆さんにお話できるネタも多くなった訳だが(笑)。音楽CDを山のように所有する銀行のエグゼクティブ、明日食べるお金もない音楽プロデューサー。もちろんニューヨークには財力も好きなライフスタイルも両方手に入れているように見える人々もたくさんいた。

夢も生活の糧も、両方必要だよね。気付かぬうちに、誰もがどちらをも追い求めている。ただ、今の社会ではお金が全てみたいになってきてしまっているのが残念だけど。

ボーカルの先生も、ストリート・ミュージシャン達も、殆どのミュージシャンは他の仕事を持っている。アメリカの人気オーディション番組を見ていると、
「家族や他のことの為に音楽を諦めてきた」
という人が続々登場する。

ものすごいお金持ちにも出会った。パーティーをたくさん開いて毎回多くの人々に囲まれて過ごしていたけれど、皆が帰ると豪邸にただひとり。とてつもなく広く豪華な彼のマンハッタンの家の壁には美しい女性の写真がいくつもあった。
「あぁ、これが彼が求めているものなんだろうなぁ」
と思った。

結局、どっちが、何が大切なんだろう。人生のそれぞれのチャプターでフォーカスするべきものは違ってくるし、その時その時に大切なものを選ぶのが人生としか言いようがない。ひとつでもそれ以上でも大切だと思えるものがちゃんとあって、それに向かって進める状況にあればそれは幸せなことなのではないか。ただ、何かを手に入れるともっともっと欲しくなるのが人間でいつまでも満たされないものなのかもしれないが。

とにかく最後に後悔はしないように、
「これをやらずに最期を迎えたら嫌だ」
と思うものは結果がどうであれ挑戦することにしている。

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