Tねえさんの言葉

何気なく誰かが言った言葉が一生の宝物になる事がある。いくつかあるのだけれどそのうちのひとつを紹介したい。

ニューヨークで留学生だった頃、生活費を稼ぐために週末の夜は居酒屋でアルバイトをしていた。ウェイトスタッフとして働いているのはいろんなバックグラウンドを持つ日本人の若者だった。私のような学生の他にダンサー、俳優、何となくニューヨークにいるだけの人もいた。キッチンで働いているのはアミーゴ(中南米からの移民)が殆どだった。個性も色々だし皆何かに向かって生きている威勢のいい若者たちで一緒に仕事をしていてとても楽しかった。

もうそこで長いこと働いていて仕切っている、いわゆる「お局様」もいた。何から何まで知り尽くし常連客が入ってくれば
「XXさんいらっしゃ~い」
と瞬時にキープしてあるボトルを持って行く。オーナーに対する発言力もありスタッフから一目置かれていた。そして通常「お局様」と聞くとついてくるイメージ、つまり「いびり屋」ももちろん当てはまっていた。

私も洗礼(?)とも言うべき彼女のいびりの対象となった時期があった。仕事に慣れた頃で何が引き金だったかは未だわからないし彼女の悪口を言った覚えもない。ことあるごとに
「メグさ~ん」
とドラマの意地悪姑が嫁を呼ぶようなちょっと高いトーンで呼ばれるのだ。「また来たか…。」とこちらも
「は~い」
なんて無邪気な嫁風に声のする方へ行ってみると、何かとあてつけがましいことを言ってくる。ちゃんとマニュアル通りにやっていても私がやったことに対してはわざと大きな声で
「えぇっ?コレ誰がやったの~?ヘンじゃな~い?」
なんて言っちゃったり(笑)。

あまりに頻度が多くなってきたのでさすがに我慢強い私もウンザリしてバイト仲間にこぼした事があった。ある日一緒に開店前の準備に入っていたTさん。彼女は日本の某有名大学を出た留学生で年は私に近く才色兼備。サバサバとした性格の上に頼りになるのでTねえさんと呼ばれていた。私がため息混じりに
「最近ねー」
とお局様のいびりをつい愚痴ったのはもちろんTねえさんだったからだ。

普通なら
「知ってるって!ちょっとひどいよねぇ・・・。」
なんて愚痴が10倍くらいに膨らんで盛り上がるところだ。ところが、だ。Tねえさんから返ってきた言葉はインパクトが巨大な上にその後の私の人生に少なからず影響を与えたスゴイものだった!
「うちら忙しいんだからそんな事いちいち気にしてらんないじゃない?」
いかにも肝っ玉ねえさんらしいカラっとした笑顔と元気な声で一蹴された。
「へっ?!」
と拍子抜けしてしまった。そして一瞬たって
「あぁ、そうか、そりゃそうだよね。確かにそうだ!」
と、すーっとヘンな力が体から抜ける感じだった。

それから15年近く経つが今でもTねえさんのあの言葉は宝物だ。あの後も何度も助けてくれたし、この先もそうなると思う。大切にしたい言葉だ。

夫と意見がわかれ口喧嘩などして素直になれなかったりすると私って人間小さいな、と思う。もっとビッグママ風に大きな心でどーんと受け止めて冗談でもとばしたいのだけれど。そんな時はTねえさんの言葉を思い出そうと思う。


これを聴いたら怖いものなし!☟

Previous
Previous

「Megさん、がんばって」

Next
Next

脳裏に焼き付いた記憶と夢