フルトン・ストリート駅、朝の検問
2010年から5年間住んだアパートはウォール・ストリート、世界貿易センター跡地、ブルックリン・ブリッジの3点を結ぶ三角形のちょうど真ん中辺りにある、フルトン・ストリート(Fulton Street)駅のちょうど真上の辺りにあった。アパートビルの入り口からものの数メートル先に地下鉄の入り口があるので雨でも雪でも傘なしで通勤できるそれは便利なロケーションだった。
さて、New York Civil Liberties Union によると、私たちがこのアパートに住み始めて1年後の2011年に NYPD(City of New York Police Department、ニューヨーク市警察)によるストップ・アンド・フリスク(Stop-and-Frisk)で警察官から声かけ・調べを受けた人の数はピークを迎えていたそうだ。その数は68万を上回る。このストップ・アンド・フリスクというプログラム、テロや犯罪防止の目的で導入されたが声をかけられた人に黒人やラテン系が断然多く、しかも9割近くが完全に無実だったという事で批判の声が高まっていた。その影響で2014年には回数が5万回を割る。
どうしてストップ・アンド・フリスクについて書いているのか?というと、なんと2014年の5万回のうちの3回が私だからだ。3回とも同じ場所、通勤に使っていたフルトン・ストリート駅の改札口でだ。しかも生まれて間もない息子をベビーシッターさんに預ける準備をしてから仕事に向かう朝の超・超急いでいる通勤途中でだ。
1度目はあまり考えず、何人かに1回適当なところでやるんだろうなくらいの気持ちで、まぁ仕方ないかと荷物をチェック用のテーブルの上に置いてしっかり
”Good morning”
の挨拶もした。2度目、
”Ma’am”(女性への丁寧な呼びかけ)
と声をかけられて、
「えっ、また?!」
抵抗するつもりなど全くないしだいたいやましいことなどないから荷物は見せるけれど、どうして2回も?偶然か?とにかくこの超急いでいる通勤時間帯にはやめてほしい。ということで不快な気持ちは顔に出す。と、同時になんとなく気づいてしまった。私のバッグ、ただの通勤バッグにしては大きい。というのも幼い乳飲み子を持つ母は搾乳機なるものを会社に持参していたのだ。
説明しよう。当時の勤務先は大手の銀行で私と同様小さな子供を持つ母親も多数働いていた。ロックフェラーセンター近くの大きな商業ビルの数フロアを占めるこの銀行には2つの搾乳室が用意されていて、忙しい仕事の合間をぬってはママたちが搾乳しに来るのだ。それを仕事の帰りまでオフィスのお茶汲み場にある冷蔵庫に入れておいて帰宅時に持ち帰る。私の場合搾乳機は月曜の朝オフィスに持参して金曜の帰宅時に持ち帰っていた。
だから検問されたのは休み明けに違いないし、忙しさや不機嫌さも倍増の朝だ。3度目ともなると、警察官がいるのがわかるとすぐもうあぁ、また来るなという感じで
「はい、そこの人」
「はいはい」
みたいな感じだった。バッグを見せる前に
「搾乳機が入ってますよ、赤ん坊がいるので」
くらい言っていた気がする。
それにしてもストップ・アンド・フリスクでアジア人女性が声をかけられるというのは滅多に見ないし聞きもしない。荷物が大きいっていったって会社の昼休みや帰りにスポーツジムに寄るために大きめの荷物を持っている人もたくさんいるだろうし。なぜ私が?そんなに何かしでかしそうな顔つきだったか?そんな私の問いに対して夫は
「可愛いからナンパしようとしたとか?」
とからかう。あんなに仏頂面で急いで会社に向かう私をか?あ、それが逆に悪かったか?
「それともアジア人はあんまり文句言わないから最も文句を言わなさそうな君をターゲットにしたんだよ」
…そうかも。でもそれって複雑な心境になるわ。
いずれにせよ、今や下火となったストップ・アンド・フリスクで NYPD に声をかけられてイノセントだった9割の中に入れた輝かしい(?)経歴を持つ日本人女性は他に殆どいないのではないか。あんまり喜ばしい経験ではないが、珍しい経験ができて今こうしてブログでシェアできるし、何よりもニューヨーク時代の面白おかしい思い出となったのだった。
手動より電動がやはり便利ですね。Medelaはアメリカでも人気です。☟