もものかんづめ
さくらももこさんが亡くなられてもうすぐ2年になる。私と同じ静岡県のご出身で、私自身さくらさんがお生まれになった清水市(現在は静岡市清水区)で働いていた経験があるので、『ちびまる子ちゃん』にはとても親しみを感じる。そのさくらさんのエッセイ集『もものかんづめ』が実家の本棚にあったので、自然と手にとって読み始めた。面白くてあっという間に読み終えてしまった。
実は私にも、「もものかんづめ」にまつわる思い出がある。
私の通っていた小学校では5年生の時にキャンプ があった。キャンプといえば学年全員で夜を共に過ごす一大イベントだ。寝袋や飯盒といったキャンプ用品を親に買ってもらい、準備の段階から待ち遠しくて仕方がなかった。毎日のように寝袋の出し入れの練習をしたものだ。
その割に、当のキャンプでの活動自体はあまり覚えていない。覚えていることといえば、皆で作ったカレーが格段に美味しく感じられたことと、オリエンテーリングがあって楽しかったな、くらいなものだ。…まぁ大昔のことだから仕方がないということにしよう。
頭の中に立ち込めた霧のようにぼんやりとしか浮かんでこないキャンプの思い出だが、ひとつ鮮明に覚えているのが「もものかんづめの歌」だ。その歌は今でも頭の中の霧の向こうから大音量ではっきりと聞こえてくる。
何故か私はキャンプに桃の缶詰を持って行った。多分、「おやつとは別に持って行って、カレーの後みんなで食べよーっと」なんて思ったのだろう。そして
「桃の缶詰持って来たから後でみんなで食べよーねーっ!」
と早い段階でグループの皆に伝えていた。その桃の缶詰のアイデアはヒットだったようで、グループの皆も食べるのを楽しみにしてくれていた。桃の缶詰ひとつでワクワクしちゃう可愛い小学生たちだったのだ。
しかし、夕飯後は雨が降ってきてしまった。それで、デザートの桃の缶詰を食べる前に女子は女子のテントへ、男子は男子のテントへ避難する羽目に。
雨は降り続いた。テントの中の女子たちが
「桃食べる?」
「わーい!食べよう、食べよう!」
となるのは自然な流れだ。
止まない雨だったが、そんなことは全く気にならずクスクス、キャーキャーと絶え間ないガールズ・トークで女子テントは大いに盛り上がっていた。と、突然少し離れた男子テントから
「おーい!桃は~っ?」
という声が聞こえてきた。男子たちめ、覚えていたか。「しまった」という表情で顔を見合わせる女子たち。
「もう食べちゃった~っ!」
と返すと、
「えぇ~っ!ナニそれ~!ずりーぞっ!」
とブーイングの嵐。そして数秒後、大合唱が聞こえてきた。
「ももはっ ももはっ まだかなっ!ももはっ ももはっ まだかなっ!ももはっ ももはっ まだかなっ!」
延々と続く男子グループの大合唱。しかもハモリながらだんだんクレッシェンドしてくやん!ふてくされた悪ガキどものその大合唱が面白すぎて
「ごめんってば~!」
と言いながら、女子全員でお腹が割れそうなほど爆笑したのを覚えている。あの歌声・あのメロディはキャンプ一番の思い出として一生忘れない、いや、忘れる事ができない。
才能溢れるさくらさん、もっともっと書いて頂きたかった。今頃は先に天に召されたおじいさまとのんびりされているのだろうか。実際のおじいさまはアニメに登場する「友蔵さん」とは違い「ろくでもないジジィ」だったそうだが、笑。
さくらさん、心温るお話の数々をありがとうございました。