マッチメーカー

マンハッタンに住み始めてからの7年間、私は自由気ままなシングルライフを満喫した。大学院の勉強にインターンシップに生活費を稼ぐためのバイト、そして院を卒業後は仕事と結婚したような生活。それ以上のことは生活に取り入れる時間的・精神的余裕がなかったのも確かだし、誰かの事を気にせずに自分の時間を100%自分の好きなように使えるのが快適だった。親戚のおじさん、おばさんたちに心配されても、ホストファミリーから誰か紹介すると言われても “No thank you”「私は幸せなの」だった。このまま一生独り者なのかもしれないとふと思ったこともあったけれど、それもありかな、でも子供は欲しいなぁ、なんて漠然と思うだけだった。

このシングル満喫期には実に沢山の出会いがあった。中には私の人生に大きな影響を与えた人もいるし、家族同様の付き合いとなった友達もいる。そんなひとりに今では舞台やスクリーンで大活躍する女優さんがいる。初めて彼女と出会ったのは、共通の知人に紹介されたアルバイト先だった。彼女も私もこれからキャリアを築くところという共通点があったし、何よりも明るくて感じのよい彼女とはすぐに意気投合した。それからは時々一緒にお茶をしたり食事に行ったり。

さて、2009年のレイバー・デー(Labor Day・労働者を讃える9月の祝日)に彼女がホームパーティーに招いてくれた。仕事で忙しい日々を送り疲れていたのもあったし、私より若い彼女のパーティーなら若い子が多くて話があわないんじゃないか?などと思い行かずにアパートでリラックスしていようかと迷っていた。最後の最後になって何故だか行ってみようという気になった。これが人生のとても不思議なところ。

初めてお邪魔する彼女のアパートに入ると男性がふたりキッチンでせっせと料理をしていた。そのうちのひとりが夫(になる人)である。一生懸命にハンバーガーのパティを作っていた。正直に言おう。フツーの出会いだ。「運命の出会い!」…というイメージからはほど遠かったしまさかこの男性と後に付き合うようになるとは想像もつかないほどフツーの出会いだった。

裏庭にでると他のお友達も集まっていた。全部で8人くらいだったか、裏庭のグリルで料理をしながら飲んだり食べたり会話も弾んで楽しいパーティーだった。おかしなことに、かなりのひょうきん者の夫は冗談を言っては皆を笑わせ
「FaceBookやってる?」
と事あるごとに皆に聞いていたのに、私にだけ聞いてこなかった。(後で聞くと恥ずかしかったから、だそうだ。)やっぱり私だけ年上だから?なんて思いながらも深く気にもせずにいたけれど、「みんなにもお礼を伝えて」とホストである友達にお礼のメールを送ったら彼女から彼にメールアドレスを送っていいかと聞かれ、OKと言うとすぐに彼から連絡があった。…と、こんな具合に出会いと最初のデートのきっかけは突然に起こったのだった。

そして、「シングル期間が長い私は相当自分勝手だろうし扱いが大変だと思うよ」という私の警告にも怯まなかった夫と私は自然に一緒になった。人生って不思議でおもしろい。

実はこの友達はパーティーのずっと前から夫と私が合うのではないかと思って会わないかと数回声をかけてくれていたのだけれど、シングル生活が大好きで紹介してくれると言われても拒み続けた私。一方の夫も彼女から私のことを奨められてノーと返したという。出会った時は知らなかったけれど後々彼女から聞いてその「紹介したい人」というのが夫だったと知った。人と人を結びつけるのが好きと言っていた彼女、どうして私と夫の相性がいいのを見抜いたのか。そして彼女がマッチメイキングに成功したのは私たちだけではないらしい。まさに縁結びの女神だ。結婚が決まった2012年のレイバー・デーには女神の同じアパートでお祝いのパーティーをしてもらったのだった。


懐かしいなぁ♪☟

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