カウンターの向こうで戯れる従業員と客の列
日本のカスタマーサービスの素晴らしさと言ったら半端じゃない。日本に戻り住んで数年経った今でもなんと素晴らしい!と感動することしばしばだ。先日も、とある会社のカスタマーサービスに電話をしてサクサクっと事が済んだ。あんまり素早くあっさり事が済んだので「これだけでいいの?」と思ってしまったほど。なぜかというと、アメリカ時代には何か問題があったとしても一度の連絡で済んだためしがなかったからだ。それに慣れてしまったので天と地ほどのギャップにびっくりしてしまう。
日本だったらお客様のお名前を間違って登録したり、
「わかりません」
「できません」
という答えがストレートに帰ってくることなどまずあり得ないがアメリカでは当たり前のように起こっていたし、ひとりのサービス係と話をしても次の人と言う事が全く違ったりするので一見解決したように見えても念のため確認の電話なんか入れていたほどだ。という事で今回は思い出すだけで苦笑してしまういくつかの例をご紹介したい。
まず携帯電話会社でもエアラインでも大手企業に連絡をするときは電話してもすぐにカスタマーサービスに繋がる事すらない。担当にたどり着くまでに
「1-5のメニューから選んでください」
というような迷路のようなステップを延々とふまなくてはならない。まるで永久にたどり着いて欲しくないかのようだ。途中で間違えたり切れてしまった時の腹立たしい事といったら。
次に実際の店舗で本当に起こった話。その昔社会人になったお祝いに姉からもらった腕時計がお気に入りでニューヨークでも毎日のように使っていた。イタリアのメーカーで文字盤の4か所に小さなダイヤが入っているのだが、その一つが取れて文字盤とカバーの間の空間を動くようになってしまった。私にとっては特別な時計だ。ニューヨークで扱っているお店を探して直してもらおうとネットで調べたが、なかなか見つからない。そこらの街角にある「電池交換します」のサインがあるような小さなお店では不安だから有名デパートの時計売り場に持って行ってみたら何とかなるのではと思い付いた。
時計売り場の店員さんに見せると
「これは技術者に見てもらわないと」
と奥からお兄さんを連れて来た。お兄さんは文字盤のカバーをツールで開けて
”I can fix that (直せるよ)”
と言う。やっぱりここにきてよかった!腕時計を預けて店を後にした。
ところが数日後、受け取り伝票を持ってデパートに行った私は腕時計を見て愕然とした。ダイヤが付いてはいるものの素人がやったのかと思うほど雑に、向きも曲がって付いている。ちょっとこれはないよと即クレームしてもう一度やり直してもらうことに。そして次に取りに行った時、私は大切な腕時計をこの時計売り場に持って行った事をひどく後悔する事になった。
今度は預ける前にはなかった傷が文字盤のカバーにいくつかついているではないか。クラクラするよ…。納得いかないのだけどどうしたらいいかと聞いても今日は技術者がいない、これ以上どうしようもない、というような納得のいかない対応で埒が開かなかった。数回足を運んだが結局どうにもならず、デパートのカスタマーサービスに電話しても同じ時計売り場にまわされるだけなので、もう少し上のマネジメントに届く事を願いつつメールを数回送ったが、結局私が泣き寝入りする羽目になった。かわいそうな腕時計。こんな姿になって戻ってくるのならダイヤが中でキラキラ動いていた方がまだよかったわ。
そして最悪のカスタマーサービス大賞を手に入れるのは、大型家電量販チェーンのユニオンスクエア店舗。もうその店舗はないが、当時は通学・通勤の帰りにちょくちょく寄った場所だ。
ある日、カスタマーサービスカウンターに用事があって店に入った。ちょうどクリスマス直後でギフトレシートを使った交換や返品の手続きに来た他のお客さんが長い列に並んでいた。こりゃ時間がかかりそうだ、と思ったがカウンターの中を見ると店員が5人いる。案外早く自分の番がくるかもしれないとそのまま列に並ぶ事にした。ところがしばらく待っても列がちっとも動かない。どうして?背伸びしたり横から覗いてみた私は信じられない光景を目の当たりにしてしまった。5人の店員のうち、働いていたのは1人だけだったのだ。若い女性の店員がレジで一生懸命に接客をしている。あとの4人はというと、そこに立ってくっちゃべっているだけ、更に信じられない事にそのうちの1人はスナックの袋を持ってボリボリ食べている。ねぇ、これって…、マネージャーさ~ん!これは流石に15年のアメリカ生活の中でもダントツのインパクトを持つ忘れられない光景のひとつとなった。
日本ではレジに列ができるや否や隣のレジに他の店員が飛んできて
「次のお客様どうぞー!」
となる。社員教育はかなり徹底されているし、少なくともお客さんの前でくっちゃべる店員はまずいない。
タイムズスクエアの近くにユニクロのワールド・ヘッドクオーターなるものが出来た時、その日本風カスタマーサービスをする現地のスタッフを見てなんだか違和感を覚えたのは私だけではなかった。接客業をするアメリカ人の知り合いはキッパリ
「あれは気持ち悪い」
と言っていた。素晴らしいサービスなのだけれど、日本基準ののカスタマーサービスがアメリカにぽこっと現れたからなんじゃないかな。アメリカではカスタマーサービスが全て悪いわけではないし現にユニクロを気持ち悪がった知り合いも実は素晴らしい店員さんなのだ。けれど一般的なクオリティーを日米で比べると大きな差がある。
アメリカに住んでいた頃は日本に一時帰国した時にスーパーのレジで
「いらっしゃいませ」
とお辞儀をされるだけで感動していた。それには慣れた今でも清算済み商品が入ったカゴを
「台までお運びしますね」
なんて気を利かせてくれると妙に感心してしまう。アメリカ人の夫なんて外出するたびに今でも感動しまくっている。私たち、日本の至れり尽くせりのサービスに甘やかされて、もしもいつかアメリカに戻る時が来たらあちらのサービスに腹を立てまくる日々になるんだろうか。