俳句の世界
私の父は俳句好きだ。大きな病気をした時もベッドサイドにノートとペンがあったし、実家のトイレでもよく鉛筆を見る。句の会や集まりにもいそいそと出かけて行くし、締め切りでも近いのか腕を組んでうーんと唸っていたり。大いに結構なことだ。
そんな父を含め家族と実家でご飯を食べていた時のこと。ちょうど人気テレビ番組の俳句コーナーの時間だった。私はもともとあまりテレビを見ないし、息子の世話をしながらなので特に注意を払わずに聞き流していた。が、ふと耳に入って来た夏井先生のコメントが忘れられない。内容的には(実際の言葉は忘れてしまったけれど)
「俳句というのは文字数も少ないし、誰かがもう既に発表していた句と同じものを作ってしまうことだってあり得る。そういう時、俳句の世界では前に発表した方も自分の作品を盗まれたなどと騒ぐこともしないし、後から発表した方も既にある作品と同じだと気づいた時点で黙って取り下げるのみ。それだけのこと。」
というようなことをおっしゃっていた。ちょっと感動だ。なんともシンプルで潔いじゃないか。私はもともとアメリカの音楽業界で働いていたので知的財産権や著作権について、そしてその侵害に対する訴訟などはよく聞く話だった。そういう主張が多い今の世の中、
「そう、本当はそうでいいんだよ」
と肯いてしまった。
大きな著作権侵害のニュースでなくとも、こういうことは日常で起こったりもする。クラフトや物作りが好きで自作の小物などを売っている友達が
「このデザインはもう私が作っているから、ってチクチク言う人がいたり、そういう人は基本のものを少しだけ変えて自分の物としてライセンス料を取ったりしているから面倒臭い」
と言っていた。
いろんなアイデアや物が溢れる今日だ。そしてそういうものをネット上や色々なところで気付かずに目にする機会も増えた。他者に対するリスペクトと大きな心で接することが大切じゃないかな、とふと考えたのだった。