息子をみていて欲しいチンピラ風オヤジ

忘れもしない22丁目と2番街の角。2007年くらいの出来事だ。昼さがり、2番街を下って歩いていると突然 “Excuse me” と声をかけられた。目の前に現れたその男性、というよりはチンピラ風オヤジという表現の方があっているその人は立ち止まった私に向かって話し続けた。
「あそこに僕の車が停めてあるんだけど、ガス欠しちゃって。中に息子がいるからちょっと一緒に待っていてくれない?」
そう言って22丁目の3番街方面を指差した。

あまりに唐突な、予期せぬシチュエーション。
「は?」
だ。咄嗟の出来事だし周りにも普通に人が歩いていたし、ちょっと時間があって警戒心のない気のいい人なら親切心から
「いいよ」
と言ってしまうかもしれない。でも「なんかヘン!」という直感も働いたし何よりもオヤジの見た目が明らかにチンピラ風だった。ちょっとニヤけた感じで前歯がかけていて花柄かなにかのシャツを着ている。おまけに首には太めの金のネックレスが光っていた。だいたい見ていてもらわないとならない年の息子がいるならちょっとでも車から離れるわけがないしそもそも AAA(トリプルエー:日本でいうとJAFのような、ロードサービスをしてくれる団体)を呼んだらいいじゃないさ。

「ちょっと急いでいるのでごめんなさい」
するりと交わしてそのまま歩き続けた。アパートの近くだったけれど、そのままアパートに入るのを見られるとちょっと怖いなと思ったので遠回りと寄り道をして帰った。ものの数秒の出来事だったけれど、とても奇妙で鮮明に覚えている。

あの時仮にも Yes と言っていたらどうなったか。多分車に押し込められてそのまま連れ去られていたと思う。アメリカではよく Missing(行方不明)のサインを見かけたり、テレビで行方不明者の「情報求む」みたいな放送があったりする。子供や若い女性が多い。私もその1人になるところだったかと思うとゾッとする。

あのチンピラ風オヤジは私を「いいカモになるんじゃないか」と声をかけてきたけれど、観光客なんかも狙われ易い。街角で意図的にぶつかられてメガネを落としたから弁償しろとか、それに似たようなケースが起こっているからと注意を喚起するニュースレターが日本大使館から来たりしていたっけ。地元の人間かそうでないかがわかってしまうのは仕方ないけれどそういう時は平静を装って
「警察に行きましょう」
と言うに限る。言葉がわからなくてもガンとした態度で一言 “Police” と言いながら行こうと前方を指差すだけで相手は引き退るに違いない。

咄嗟の判断が苦手だったりする私。それでも直感に助けられた一件だった。

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