ゴースト・ストーリー
4月に小学生となる息子。怖がりで、トイレに行くたびに
「ママきて~」
ドアのすぐ外にいないと、トイレからほんの数歩離れただけでも
「ここにいて~」
と慌てる始末。でもね、わかるのだ。私もそうだったから(笑)。そして更に私に似ているなぁと思うのは、怖がりなくせに怖いビデオを見たがるところ。怖くないと意地を張る息子と、怖いと認めながらもつられて見入ってしまう母のホラービデオ観賞会がこの頃増えてきた。
ビデオなんぞ見なくとも、実はゴースト・ストーリーは案外身近にあるのだけど。かつてアルバイトをしていた東京のお店ではトイレから階段にかけてのあたりに女性の幽霊が出ると言っていた。オーナーの奥さんが
「ここには幽霊がいるの、うふふ」
とやや嬉しそうに言っていたのを覚えているから、タチの悪い類の幽霊ではなかったようだ。
ニューヨーク時代にも、色々とゴースト出没説を耳にしたものだった。ジャズの生演奏を聴ける、とあるお店には、入り口に盛り塩がしてあった。日本でも滅多に見たことがなかった盛り塩をニューヨークで見かけて
「あら、こんなところに」
と何気なく口にした私の言葉を聞いていた連れが
「ここ、出るんだって」
と教えてくれた。奥の方にある男性トイレなのだそうだ。女性トイレじゃなくてよかったと思いながらも、暗い通路を通って同じ方向にある女子トイレに向かう時はちょっと気味悪かった。
かなり怖かったのは、アルバイトをしていたミッドタウン・マンハッタンにあるレストランの2階だ。このお店はオーナーさんが、1階と2階で違うコンセプトのお店を展開していて、休業日も別の日だった。食事は1階から出す反面、飲み物が足りなくなると2階から貰ってくるので、ウェイトレスは頻繁に階段を上り下がりすることになる。それ自体は運動不足の解消にもなるのでウェルカムなのだが、2階が休業の日にはナーバスになったものだ。
想像してほしい。真っ暗な階段を上り、真っ暗な店内に入っていく怖ろしさ。「出る」と言われている2階にたった1人で。比較的余裕のある時間帯なら、バイト仲間に来てもらえるかもしれないけれど、混み合った時間帯にそんな甘えたことを言ってはいられない。でも、これ、相当のスリルなのだ。深呼吸をしたら何も考えずにズンズンと階段を上り、照明のスイッチのある数メートル先までひたすら足を動かし、とにかく取りにきた飲み物に神経を集中させる!飲み物を手にしたら、あとは転がるように退散するだけだ。あぁ、あの暗い階段を下から見上げた時のドキドキが甦る。そんな怖い思いをした割に、幽霊を見たことは一度もなかったが。
息子が見ていたビデオには、「本物」の幽霊の仕業という現象やら幽霊の影らしきものが映っていた。いやぁ、こんな事、自分の身に起こってもらいたくないわ。そんな怖いビデオを見たあとは、息子が夕飯の支度をする私にピッタリと体をつけて離れないので、
「あんな怖いの見るからよ~」
「夢に見ちゃうよ」
と言うと、紙にクルマの絵を描いて、
「ママ、今日は枕の下にこの紙を置いて寝るね」
だそうだ。幸運を祈る。