自然分娩 vs 無痛分娩
アメリカでは、殆どの女性が無痛分娩を選択する。エピデュラルという麻酔薬を使うが、現地に住む日本人のプレママたちと集った際にも
「エピ使うでしょ?」
という話になった。私が自然分娩と言うと、
「えっ?!」
と変態かとでも言いたそうな視線を向けられた。人類始まって以来母親たちが皆経験したように、そして私の母が私を産んでくれたように私も自然な形で自分の子を産みたかっただけなんだけど。
初潮を迎えた頃から毎月ひどい生理痛に悩まされ母に
「あんたは毎月お産してるみたいだねぇ」
と言われていたのもあって実際どのくらいの痛みなのか知ってみたくもあったし、(母の言う事が本当ならば毎月経験していたから)大丈夫という(甘い)自信もあった。あまりのひどさに見かねて
「生理が来ないようにしてしまったら」
と心にもない言葉を母が口にした時は
「将来子供を産めなくなるなんて絶対イヤ!」
とのたうち回りながらも反発して来たのだった。そして遂にそのお産の時が来たのだ。私が生まれてきた目的のひとつを果たす時にエピなんていうオプションはあり得ないのだ。
子宮口が4センチ開いた状態で入院許可が降りた際、
「無痛分娩にしますか?」
という質問をされた。以前から自然分娩でという意思を表明していたけれど、多分全員その場で再確認されるのだろう。
“No, I’ll go natural(自然でいきます)」
と言うと、
「麻酔のスペシャリストが常に控えているからいつでも切り替えられるわよ」
と言われた。さすが大きな病院だ。まぁ心強いといえば心強い、絶対使わないけど。
さて、分娩が本格的に始まった。が、生理痛とは比べ物にならない激痛じゃん!痛みに悲鳴を上げながら
「もうPushできない~っ!」
と騒ぎまくる私を見兼ねたドクターが
”There is no way you suffer like this. You can use epidural any time. (苦しむ必要なんてないしいつでもエピデュラルに変えていいのよ。)”
と 言葉をかけてくれた。あまりの辛さにエピのチョイスがチラリと頭をよぎる。とその時、夫が私の顔を覗き込んで
“You can do it!”
と励ましてくれた。よくも簡単にそんなこと言えたもんだ!すっごく痛いんだぞ~!と一瞬思ったけれど、出産前から絶対エピなしで産むから途中励ましてねと言ったのは私、夫はその意思をくんでちゃんと励まし続けてくれたのだった。でもダメダメ、本当にもう行けません!というところでドクターから
「頭が見えているからもうすぐよ!Pushして!」
という声がかかり、声にならない声を発しながらいきむと最後はスルスルっという感じで息子が出た来た。もうグッタリとしていると
”She's a SAMURAI (彼女サムライだわ!)”
というナースと夫の笑い声が聞こえてきた。
その後1時間、最初の放置とはうってかわって今度は幸せいっぱいの放置をしてくれた。”Skin to skin” と呼ばれている、赤ちゃんをママの胸に乗せて肌の触れ合いをする時間(カンガルーケア)だ。多分人生で一番の感動と幸せが詰まった時間。
ハッピーな余韻に包まれながら病室に移ると声枯れに気づいた。いきむ時に奇声をたくさん発していたからだな。まわりの分娩室の人々はさぞ恐ろしく不審に思ったことだろう。そして2人目はエピを絶対に使うぞ!と心に誓ったのだった(結局1人でおわったけど)。
病院では赤ん坊の持ち去りや間違いを防ぐためのセキュリティがとても厳しく、事あるごとに母親と子供に付いているバンドのバーコードが一致していることを確認された。間違いなくうちの子ですよと最終確認をロビーで終えて夫と家族3人で病院を出た。赤ちゃんと一緒の帰宅。3日前には2人でやって来たのになんだか不思議だ。今は亡き犬のハービーが興味深そうに出迎えてくれたっけ。こうしてFiDi(マンハッタンのファイナンシャル・ディストリクト)での家族生活が始まったのだった。
イーグルスのドン・ヘンリーが息子の誕生について歌った歌です♪❤︎☟