アメリカでの出産

婦人科の検診で3ヶ月頑張れと言われたまさに3ヶ月後、妊娠検査薬が陽性と出て喜ぶと同時にした事のひとつが産婦人科医選びだ。アメリカの医療はとてつもなく高額だから自分が加入している保険が適用されるドクターを選ばないと恐ろしい額の請求がくる事になる。その上で信頼がおける病院で評判のいい女医さんを選んだ。初診の日、早速胎児の心拍を聞いて興奮しながらも
「高齢なので少しナーバスです」
という私に
「40歳の初産なんてニューヨークじゃしょっちゅうあることよ!」
と気持ちを楽にしてくれた。

思い出せばニューヨークの人々は日本と比べると妊婦や赤ん坊連れにとても親切だったし、仕事を出産前日まで続けたもののストレスというものには無縁だった。お腹が目立ち始めると、車両の向こうの方から
「おーい、ここに座ったら?」
なんて声をかけてくれるしほぼ100パーセントの確率で席を譲ってくれる。産後3ヶ月で職場復帰した直後の通勤中、まだお腹がポッコリしていて席を譲ってもらってしまったこともあった。通りがかりにとても真剣な表情で
”Please rest when your baby is sleeping.(赤ちゃんが眠ったらあなたも睡眠をとってね。)”
と親身なアドバイスをくれたおばさまもいた。今では友人や知り合いが妊娠すると同じことを伝えている。

妊娠中は酸っぱいものが食べたくなるなどとよく聞くけれど、ナント私が最初に欲したものはホウレン草だった。それとポテトチップス。いけないと知りつつも、日本では(COSTCO以外では)まず見かけないジャイアントサイズのチップスが常にキッチンにあって、夫によく
「あれ?買って来たばっかりだと思ったけど。」
と言われたものだ。

以前お話したが、息子は妊娠37週で誕生した。39週だったら想定内、しかしまさか3週間も早く来るとは思いもよらななかった私と夫。夜中のトイレでアレッ?という感覚があって眠っていた夫に言うと、飲んで帰って来てまだ酔いが覚めずにいる彼は半分眠ったままそんな訳ないでしょという感じでiPhoneを差し出してきた。ラップタイムを計れと。産婦人科で
「5-1-1ルールというのがあって陣痛が5分おきにきて1分間続く状態が1時間続いたら来てくださいね」
と言われていたそれになるか計ってごらんという訳だ。私が通っていた産婦人科のポリシーではそのくらいになって子宮口が4センチ開くまでは入院させてもらえずに隣接したセントラル・パークを歩いておいで、なんて言われてしまうらしかった。さて、素直に夜通しラップタイムを計っていた私だが、明け方になって
「これはもう絶対にそうだってば!」
というところまできた。今度こそ夫をしっかりと起こし産婦人科に電話をして5-1-1に当てはまる伝えると
「今から来てください」
とのこと。すぐにカーサービスを呼んで病院に向かった。車中、陣痛で早くもヘタっている私と呑気にセルフィーを撮っている夫。
「それどころじゃない!」
というもの凄い表情の私を捉えたその写真は結局いい思い出の一枚となった。

そうそう、出産前に会社の上司に連絡しておかないと、と勤務先の上司に電話連絡をした。
「陣痛が始まってしまいました。今から産んできます!」
上司の最初の言葉は
「え?もう?マジすか?」
だった。無理もない。予定より3週間も早いのだ。早く生まれるにしてもあと1-2週間くらいは出社すると思っていただろうし、代理を務めてくれるテンプスタッフさんとの引継ぎも前日に始まったばかりだった。チームの皆さんごめんなさい!

さて、病院に到着して測ってもらうと…ビンゴ!子宮口4センチ、即入院。
「夕方くらいには産まれるわよ。」
と言われ
私:「ひえぇ~!この痛みが夕方まで続くってこと?!」
夫:「なんだ、まだまだだね、ご飯食べてくるね」
ここでもこの心理ギャップ(笑)。まだまだお産は始まらないということで次の1時間は分娩室にひとり放置された私だったが、その1時間に地獄の痛みと戦うことになるのだった。ナースがチラッと現れたので
「痛い、すごく痛い!」
と叫びながら訴えると先生を連れて来てくれた。なんと1時間に1センチづつ開いていくはずの子宮口(つまり4センチから全開の10センチまで通常6時間かかる)がその1時間で10センチになってしまっていたのだった。痛いワケだ。息子よ、何がお前を急がせる?!これにはナースもビックリ。
「あらあら、もうお産開始ね」
と即準備が始まった。そこに呑気に朝ごはんから戻って来た夫。
私:「どこに行ってたの!!!もう始まるからっ!」

その2時間後くらいに産まれたから平均的なお産だったのかな。もう母のお腹は窮屈と待ちきれずに出てきた息子。最初から自分の意志がしっかりしていた。最初の夜、オムツを替えても授乳しても泣き止まず、困り果ててナースを呼ぶと
「あっ、もしかして...」
と息子を横になった私の胸の上にうつ伏せに寝かせてくれた。その瞬間にピタッと泣き止み 「あぁ、ママに抱っこして欲しかったのね!」
もうすぐ5歳の今も頑固で甘えっ子だ。

ところで、最初に保険が適応される医師を選んだとお伝えしたがそれが同じ病院内で医療サービスを提供する他のスペシャリストにも別途当てはまる、というのを妊娠を通じて知った。途中問題が発生して朝一番の検査が必要だった時に、私の入っている保険が適応される超音波技師が午後にならないと空かないと言われて動揺したことがあった。流産の危険性にさらされてハラハラで泣きそうなのに7時間近くも病院のベンチで待つなんてできないと、坂道を通って地下鉄に乗ってアパートに帰り午後再度出直したのだった。アメリカの医療システム、先進国なのだし日本やその他の国のように全国民がカバーされるユニバーサルなものにしてほしいところだ。

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