大雪でライブ中止
最近、地元のレンタルスタジオで「英語で歌う」講師登録をしました!ハワイアン・フラダンスを教えている姉と一緒にスタジオ見学に行ってみたら、アレよアレよと言う間に…(笑)。ということで、今回は音楽に因んでニューヨーク時代のライブの話をひとつ。
年末に近いマンハッタンはイーストビレッジのミュージック・バー。店自体がオープンしているのもすごい!というくらいの大雪の夜。当時一緒に活動していたギターのアキくんとのデュオのライブが予定されていた日だった。
同日、ウェストビレッジにあるジャズの老舗ブルーノートではクリス・ボッティが演奏している筈だった。リハーサル時、
「ライバルじゃん!強敵だねぇ。」
との私の冗談に
「比じゃないでしょ…」
とひきつった笑みで真面目に突っ込んでくれたアキくんだったが、そんなアキくん本人もこの大雪では住んでいるクイーンズから出ることができない。他の楽器のサポートメンバーだってこんな雪の中、ドラムやキーボードを車まで運んで運転して来られるはずがない。一方私はと言うと、ライブ会場のバーから徒歩圏内に住んでいたのでとりあえず行ってみようということになった。
店内にいたのはバーテンダーと私と当時はまだボーイフレンドだった夫。そして驚くことにカウンターでひとりのおじさんが飲んでいた。こんな大雪の中わざわざ足を運んでくれる熱烈なファンがいたとは!いやいや、多分このエリアで開いているバーが他に見当たらなくて取り敢えずここに入った、というのが妥当なところだろう。
そのうち、店内の人数が少ないこともあってさりげない会話が始まった。実は私の夫はとてもフレンドリーな人間で、バーに行けば大抵の場合、気付くとカウンターにいる全員が友達になっている。その日もそんなノリで話をしていると、ナントもうひとり客が入ってきた。まさに大雪の中を歩いてきましたといういでたちのその女性が顔の半分を覆っているジャケットのフードを取ると、それは友達のルナだった。
「えー、きてくれたの~!?」
友人たちにライブの告知はしていたものの、この大雪ではまず来られる人はいないだろうと思っていた。私だって出演者本人でなければ
「こんなんじゃやらないよね」
とアパートにこもるところだ。感激極まりない。
「せっかく来てくれたんだけど、この雪でバンドのメンバーも来られなくて…」
と説明のあと、今度はルナを交えてバーテンダーとカウンターで飲むおじさんと夫と皆で会話とお酒を楽しむ会になった。
帰りはせっかく来てくれたルナがしっかり家に帰れるのを見届けようと、夫と一緒に最寄りの地下鉄の駅まで歩いた。もし地下鉄が走っていなければルナは困ってしまうし、こういう大雪の日はイエローキャブだってつかまえることは不可能に近い。道路にはまだ通行人や車で踏み潰されていない白くてフワフワな雪が積もっていた。これじゃあ除雪車が来るまでは車も通れないからチャンスだ!と3人で思いっきり雪遊びをした。空に向かって大きく口を開けて降り続ける雪を食べるわ、広い道のど真ん中に寝っ転がってスノーエンジェルを描くわ、やりたい放題。そしていつもの数倍の時間をかけて駅に着くとちゃんと地下鉄は走っていてルナは自宅に帰って行ったのだった。
楽しみにしていたライブはなくなっちゃったけど、なんだか楽しい夜だった。帰り道、ふと思った。そういえば、ライバルのクリス・ボッティは今晩演奏したんだろうか。