俳優犬
ニューヨークに住んでいた頃は街を歩いていると時々映画やテレビドラマの撮影に出くわしたものだった。大掛かりなものになるとかなりの数のクルーが忙しそうに動き回っていたり、俳優の控え室になっているトレーラーが道路脇に停めてあったり。通行人の動きを規制している時もあるので迷惑なような、でも興味をそそられてクルーに
「なんの撮影?」
なんて聞いてみたり。ケータリングのテーブルに飲み物やフルーツがあってチラ見しながら通ったりしたものだ。
イーストビレッジのレコード会社勤務時代。お腹が空いてくるとたいてい同僚とランチを買いに出かけていた。ある日
「今日はサラダにする?」
と角を曲がったすぐの所にあるサラダ屋さんに行くことにしてビルを出ると人だかりができていてビックリ。何事?これじゃあ通れない!と立っている人々の間から道路を覗いて見るとこれまたビックリ。いつもと全く違う風景なのだ。
車が、それも道の両側に埃まみれになった車がビッシリと停まっているじゃあないか。枯れ草なんかが乗っかっているものもある。あぁ、そうか、撮影だなとピンとくる。人々の波をかき分けながらものの20メートルほど先の交差点まで行くと、人々の通行を停めている撮影クルーのお兄さんがいた。
「なんの撮影?」
と聞いてみると ”I, ROBOT” というウィル・スミス主演の映画だという。へぇー、じゃあウィル・スミスも来てる?と聞くと今日は ”No” なのだそうだ。残念。
お兄さん、私たちランチを買いに行かなきゃなんだけどもう通っていい?と聞こうとしたその時、犬好きで有名な同僚が
「あの犬、映画に出るの?」
興奮気味に声をあげた。
「そうだよ。」
お兄さんがサラリと返事をすると、彼女のテンションが妙に上がり旦那さんに
「ねぇ、会社の前で撮影してるんだけど、映画に出る犬みちゃった!」
と電話で報告している。まるでスーパースターを見たようなはしゃぎようだ。
その日からまる3ー4日、ビルの前のブロック全体が廃れた状態にセットされたままで撮影が続いていた。マンハッタンの大きな通りを平日昼間に封鎖して100人は軽くいるであろうスタッフが数日間かけて撮影する。さぞ大切なシーンだろうと後々映画を見てみたら最初のほんの短い間のシーンじゃないか。これにもビックリだ。ハリウッド映画の規模の大きさを感じたのだった。それにしても ”I, ROBOT” では住み慣れたマンハッタンが廃れた姿で出てきてなんとも不思議な感じがするのだった。
こちらがその映画です。☟